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GenshinData-1/Readable/JP/Book13_JP.txt
2021-04-26 00:42:37 -03:00

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子狐が見えなくなると、彼女は振り返り俺に近付いてきた。
一歩二歩と、近付いてくるにつれ、狐はどんどん大きくなる。
俺の前に来た時に、狐は人の姿になっていた。
背が高く、スラリとした長い首と白い肌を持った姿だ。その瞳は湖のように、キラキラと輝いていた。まるで、太陽が木の葉の間から、水面を照らしているような光だった。
(本当に綺麗だな。俺が片思いしていた子によく似ている。名前はもう覚えてないが、この目は絶対に彼女と同じ目だ)
俺は思った。
術も狐が人になるのも、この輝く湖の瞳とは比べ物にならない。俺達はどこまでも続く蒲公英畑の中で、何も言わずじっと立っていた。
やがて、沈黙に耐えられなくなった俺は口を開いた。
「それが俺に教えてくれる狐の術なのか?」
「そうです。長い間、本当にありがとうございました」
彼女は俺に向かって頭を下げた。黒い長髪が水のように肩から流れ落ちる。
子狐との別れは俺の心に穴を空けたが、これで変化の術を教えてもらえると思うと、胸が躍った。
術を習得すれば、俺は鳥になって高い空を飛べる。一体どこまで高く飛べるのだろうか? 魚にだってなれる。そして、まだ行った事もないマスク礁まで泳いでいくのだ。
「ハハ、狩りにだって使えるぞ」俺は思った。「肉の入ってない鍋とはおさらばだ」
「では、そのままじっとしていて下さい」
彼女は俺の周りをクルクルと歩く。一周する度に、彼女の姿はどんどん大きくなっていった。
いや、それだけではない。周りの蒲公英もどんどん伸びている。最初は足元までしか届いていない蒲公英が、今は腰の位置までに来ている。最後は天にそびえる大木のようになった。
何かがおかしいと気付いた時には、彼女は既に巨人になっていた。